「薬指の標本」2005年にフランスで映画化された小説

「薬指の標本」がどのような作品なのか、読者による小説のあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「薬指の標本」を読んだきっかけ

もともと小川洋子の書く文章が好きだったのでいろいろと読んでいます。この本は、移動の合間に読めそうな薄さだったので駅の書店で目に留まり、表紙のゴシックな雰囲気に惹かれ、そのまま購入しました。

「薬指の標本」はどんな小説?

「薬指の標本」は、小川洋子の少し不思議な恋愛小説です。物語の舞台は思い出を標本にする「標本室」という場所です。そこの主である技術士と、偶然そこで働くことになった「わたし」がだんだんと惹かれあい、愛し合っていく姿を描いています。その愛情表現はかなり奇妙ですが、小川洋子らしい静かで美しい文章が楽しめる作品となっています。

「薬指の標本」のあらすじ・ストーリー

サイダー工場で働いていた「わたし」は、事故で機械に指を挟まれ、薬指の先端を失います。

それがきっかけで仕事を辞め、街へ出た彼女は、古びたアパートに貼られた事務員募集の貼り紙を見つけます。そこは、標本技師の「弟子丸氏」が管理する「標本室」でした。

標本室は、依頼人が持ち込んだ思い出を標本にし、保管する場所です。思い出はどんなものでもよく、あらゆる物、例えば音楽などでも持ち込むことができます。「わたし」が標本室で働き始めてからしばらくして、弟子丸氏は彼女に靴をプレゼントします。

その靴は履いたとたん吸い付くような感覚がし、ぴったりというほかのないものでした。そのころから、二人は特別な関係になっていくのです。しかし、ある少女が自分の火傷の跡を標本にしたいと訪ねてきたときから、少しずつ平穏な時間が乱れていきます。火傷の少女は、標本を作るために弟子丸氏と地下の標本室に行ったまま姿を消しました。

アパートに昔から住んでいる婦人によると、過去に働いた事務員も標本室へ行ったまま、消息不明になっているようです。地下の標本室で何が行われているのか、消えた女性たちはどうなったのか…。そんなことを考えているうち、「わたし」の中にそれまでとは違う感情が芽生え始めます。

それは、自分も弟子丸氏の特別な標本になりたいという願望です。弟子丸氏が「わたし」にプレゼントした靴は、いつしか彼女を侵食し、離れなくなっていました。靴を脱いで自由になった方がいいと忠告する靴磨きのおじいさん(標本の依頼人でもあった)に別れを告げ、彼女はついに標本室の扉をノックするのです。

「薬指の標本」を読んだ感想

短い話ではありますが、読了感はずっしりとしたものがありました。まず、標本室という不思議な設定(小川洋子の小説ではよくあることですが)に引き込まれました。標本というのがキーワードだと思いますが、単に残しておく何かではなく、標本として形にとどめることに意義があるのだと思います。

一方で「わたし」は、あるはずの薬指を失う、いわば形の消失を経験しているわけで、何か標本との対峙的なイメージを感じました。そして最後にはその本人も…。標本氏の弟子丸氏はというと、感情の読み取れない、淡々とした人というイメージなのですが、その実靴を送り固執するという執着心もあり、ちょっと不気味でした。とても静かで、登場人物も少ないお話なのですが、考えることの多い物語でした。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。

その他、「薬指の標本」が読める電子書籍ストアはこちらです。

コミックシーモア  BOOK☆WALKER  ebookjapan  BookLive!  honto  ブックパス

タイトルとURLをコピーしました