「廃用身」回復の見込みがない部位を切断する医療小説【あらすじ・感想】

「廃用身」がどのような作品なのか、読者による小説のあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「廃用身」を読んだきっかけ

私がこの作品に出会ったのは、ちょうど渡辺淳一作品を通して、医療モノというジャンルに惹かれ始めていたときでした。そしてたまたま書店をブラついていたときに、この作品を見かけ、ちょうど興味がるジャンルということもあり購入してみたのです。

「廃用身」はどんな小説?

「廃用身」は、現役の医師である久坂部羊が手掛けた医療小説です。久坂部羊のデビュー作でもあります。

老人医療をテーマにした作品であり、回復の見込みがない部位を切断するというセンセーショナルなテーマを持っていますが、それ以上に作品の構成が、小説の書き方の常識を覆す斬新なつくりになっているのが見どころです。

「廃用身」のあらすじ・ストーリー

この作品は前半と後編でつくりが異なり、語り部も変わります。前半での語り部(というよりも「書き手」)は漆原医師。老人デイケアクリニック「異人坂クリニック」の院長を務める医師であり、老人医療に熱意を傾けています。

前半は、そんな漆原氏が描き上げた書籍という扱いで、章ごとに大見出しがあり、小見出しがあり、一見するととても小説には見えないような作りになっています。そこで語られるのは、老人医療の現場のリアルな状況。漆原医師が実際に診た老人数人を例に挙げ、老人医療とはどういうものなのか、どういう状況の人がいて、何が問題なのか、という点が詳しく述べられていきます。

その中で注目されるのが、「廃用身」を持つ老人。廃用身とは作中オリジナルの医療用語で、回復する見込みがない部位のことです。

廃用身は、どんなに頑張ってリハビリしても、元のように動かすことはできません。それなのに異常な冷えを感じたり、変な方向に曲がったまま固まったりしていることも多く、本人にとっては邪魔で不快で憎らしい存在ですらあることが多いというのです。

あるとき漆原医師は、その廃用身を切断するという治療法を思いつきます。最初はその思い付きの治療法に、彼自身が生理的な嫌悪感を覚えたものの、いざ治療に踏み切ってみると、老人たちのQOLは見事に上昇したのです。

漆原医師はこの治療法に可能性を感じ、この治療法を推し進めることにしました。前半はそのために記されたものだったのです。後半は「編集部註」として、漆原医師の原稿を担当していた編集者によって記されています。

その冒頭で、前半の原稿が漆原医師の「遺稿」であること、そして廃用身の切断手術という治療法が封印されたことが明かされます。なぜ漆原医師は亡くなったのか。なぜ画期的であったはずの治療法が封印されたのか。それらのことが、編集者の客観的な視点でもって描かれるのです。

「廃用身」を読んだ感想

これは本当に衝撃的な作品です。読んでいる間、私は何度も「これはノンフィクション作品なのか?」と思いました。

それほど真に迫る描写が多く、老人医療に関するストーリーも、実際このような状態なのだろうと納得してしまうことばかりでした。

そして、動かない手や足を切断してしまうという衝撃的な治療法。

最初こそ驚いたものの、漆原医師の手記を読んでいくうちに、漆原医師と同じように、「これは画期的な治療法だ」「世間に周知して、老人医療の選択肢のひとつに加えるべきだ」と思うようにまでなりました。本当に「ごく自然に」です。

しかし、その思いは、第三者が記した後半の内容によってグラつき始めます。この作品は前半・後半で書き手が分かれるという構成の作品ですが、これが本当に巧みで、主観で見ること、客観的に見ることのちがいと大切さを思い知らされました。

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