「魚神(いおがみ)」(千早茜)独特な文体で惹き込まれる幻想的な世界

「魚神」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「魚神」を読んだきっかけ

のちに気に入って購入しましたが、初めは近所の図書館で単行本を手に取ったことがきっかけでした。もともと幻想的な雰囲気の小説は好きだったので、宇野亜喜良さんの手掛ける装丁はとても綺麗で、思わず目を惹かれました。

どんな小説?

「魚神」は日本の小説家である千早茜の処女作です。舞台はいつの時代かどこの場所かもはっきりとはわからない、日本本土から離れた大遊郭の栄える島。姉弟でありながらも身売りされて離れ離れとなってしまった白亜とスケキヨを巡って物語は進んでいきます。

ミステリアスかつ幻想的な世界観ながらも、その文体の持つ、妙にリアルな描写に引き込まれて一気に読み終えました。

あらすじ

「魚神」の舞台は昔の日本のどこか。時代も場所もはっきりとは書かれていません。独自の文化が息づく日本本土から閉ざされた島で、姉・白亜と弟・スケキヨは捨て子の姉弟として育ちました。

誰もが目をみはるほどの美貌を兼ね備えた二人は、実のところ本当の兄弟であるかどうかすらわかりません。物心ついた頃からすでに島にいて、それ以来一度も島の外へ出たことはありませんでした。

互いに名前を呼び合い、まるで自分のもうひとつの魂であるかのように、その存在を拠り所として生きてきました。共依存し合う二人はしかし、年頃になると別々に売られ離れ離れとなってしまいます。

時は経ち、大遊郭の中でも筆頭の遊女へ登り詰めた白亜と、消息が途絶え行方知らずとなったスケキヨ。基本的に白亜の目線で物語は進行していきます。この世の流れに身をゆだねながらも、スケキヨの気配を常に意識して居場所を探してしまう白亜。目の前には現れないものの、その存在を時折匂わせるスケキヨ。強く求め合うが故に互いの気配・存在を感じながらも拒絶が怖くて近づけない二人の様子が描かれます。

そして彼らを取り巻く登場人物達をも巻き込みながら、舞台である島の様子も徐々に変化を遂げていきます。 白亜を羨む遊女の”新笠”、白亜を想いを馳せる裏繁華街の剃刀のような鋭い印象の男、”蓮沼”。

そしてスケキヨをしたう舟渡しの”蓼原”など、二人の他にも周りの人々のリアルな人間模様が繊細に描かれてゆきます。しかし白亜とスケキヨにとっては、互いのこと以外の全ては、まるで別の世界での出来事のようで、ほとんど感情の対象外にあるのでした。二人の運命は、彼らを取り巻く人たちそれぞれの想いすらもろともせず、島のすべてを巻き添えにして雷魚伝説と交錯していきます…。

読んだ感想

夢見心地のまま、一気に流れに身を任せるように読み終えてしまいまいました。すでに数回読み返しているのですが、何度読んでも引き込まれます。時々残酷で非情な出来事の描写も入るのですが、白亜の目線で描かれているせいか血生臭さのようなものは全くなく、始終水か何かのフィルターをひとつ通して彼らの世界を覗いているような印象を受けます。

白亜とスケキヨを取り巻く登場人物らの行動は至極リアルに描かれ、それぞれの妬みや嫉妬、人情深さをはっきりと感じさせます。それ故に彼らの生々しい人間臭さが対となり、より鮮やかに姉弟二人の異常なまでもの強い絆が浮かび上がっていく姿は圧巻でした。

初めて読んだのは確か中学生の頃でしたが、同著者の作品の中でも特に文体が心地良く、ことある毎に何度でも読み返したくなってしまう作品です。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。

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