「白夜を旅する人々」昭和初期の青森県八戸市が舞台を中心にした物語の小説

「白夜を旅する人々」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「白夜を旅する人々」を読んだきっかけ

今から30年以上も前に書かれた作品だけに普通なら書店で手に取るような機会もなかったはずですが、たまたま訪れた図書館が出会いの場となりました。

風除室に設置されていたリサイクル本コーナーで、「ご自由にお持ち帰りください」という張り紙の下にこの古い文庫本が置かれていたのです。何気なく手に取って大佛次郎賞受賞作だと知り、興味を引かれて家に持ち帰ったのでした。

どんな小説?

作者の三浦哲郎は短編小説の名手と言われた芥川賞作家ですが、1984年に発表された「白夜を旅する人々」は自伝的要素を持つ長編小説です。

昭和初期を舞台として、作者の生まれ育った青森県八戸市を中心に物語が展開していきます。優れた文学表現が評価され、この作品が第12回大佛次郎賞を受賞したのは1985年の出来事でした。

あらすじ

作者が生まれ育った家をモデルとしたこの作品は、悲劇の運命に弄ばされた家族の物語です。男女3人ずつの6人兄弟と父親・母親という家族構成も、父親が呉服屋を経営しているという設定とともに現実を反映しています。

自伝的小説と言えば作者自身がモデルの主人公を思い浮かべがちですが、「白夜を旅する人々」で作者がモデルとなっているのは6人兄弟の末っ子として生まれた羊吉です。彼が生まれようとする日に、長兄の清吾が馬橇に乗って助産婦を迎えに行く場面から物語が始まります。 赤ん坊の羊吉はほとんど脇役で、幼い彼の視点で語られるのは最後の部分に過ぎません。

以後の各章も羊吉の兄や姉たちが交互に視点人物となりますが、彼らのほとんどは若くして自殺したり、行方知れずとなった人たちです。 3人の姉のうち2人は先天的な色素欠乏症として生まれ、弱視の障害と偏見を抱えながらの生活を強いられてきました。経済的な面では家庭環境に恵まれていながらも、そうした事情が一家に暗い影を落とします。

本家の経営する百貨店に就職した長男の清吾と中学校に通う次男の章次、色素欠乏症の長女・るい、女学校に通う次女・れんの4人が、作中で重要な役割を演じる登場人物です。末っ子・羊吉の成長に合わせ、いずれも十代の兄や姉たちが悩み苦しみながら運命と戦う姿が描かれていきます。

れんは学校一の秀才でありながら、女兄弟の中で自分だけ健常な子として生まれた事実に苦しんできました。悩み抜いた末に彼女が死を選んだ事実に他の兄弟も衝撃を受け、悲劇の連鎖へとつながっていくのです。弟や妹たちを支えるべき立場にあった長兄の清吾もまた、恋人の少女を不幸な出来事で亡くすという悲しい出来事に見舞われます。

こうした悲劇は作者の生まれ育った家で実際にあった話だけに、末っ子の作者も「どうして…」という思いを長年にわたって抱え続けてきたはずです。小説家として成熟の域に達した作者は想像力を駆使しながら当時の情景を再現し、兄や姉たちへの鎮魂歌として「白夜を旅する人々」を書き上げたのでした。

読んだ感想

読む前に、あらすじを文庫本の概要で見たときには、滅入るような暗い物語を想像していましたが、読後は不思議なやさしさが残りました。悲しい運命をたどった兄や姉たちの内面は、当時まだ物心がつかないほど幼かった作者にとって知る由もなかったはずです。

大人になった作者が若き日の兄や姉たちに乗り移り、知られざる苦悩を克明に描き出したのは小説家ならではの想像力の賜物だと言えます。 兄や姉たちを描く作者の視点は温かで、悲劇の物語にも関わらずユーモアすら感じさせる筆致です。

驚きの感情を表す「おいたあ」など独特の南部弁で語られる会話がまた味わい深く、昭和初期の北国の情景と溶け合って得も言われぬ情緒を醸し出しています。そんな「白夜を旅する人々」を読んで、昭和初期の北国にタイムスリップしたかのような追体験が味わえたのは得難い収穫でした。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。

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