「利休の茶杓 とびきり屋見立て帖」あらすじ・感想

「利休の茶杓」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「利休の茶杓」を読んだきっかけ

古本店で本棚に並ぶ本の背表紙を流し見していて、私の目線を捕らえたのが「利休の茶杓」という題名でした。歴史、特に戦国末期のそれが好きな私が興味を引かれたのは、「利休」の二文字です。信長、秀吉、家康の三英傑の小説を一通り読み尽くして、私の興味はその周辺の人物に移っていました。千利休などはその最右翼の人物で、小説の内容は二の次で購入しました。

どんな小説?

時代は江戸末期。芹沢鴨を先頭に新選組隊士が街を跋扈し、御所周辺では長州と薩摩の軍勢が睨み合うといった、世情穏やかならざる京の街が舞台です。主人公は骨董品を扱う小さな店の若夫婦。

茶道の古道具を巡って巻き起こる様々な騒動にこの夫婦が対処する中、人間模様が描かれ、茶道道具の名品の良さが語られていきます。

あらすじ

独立した六話の短編集の形ですが、登場人物や時代背景などは六話を通してその裏に順序だって流れています。それぞれの話に若夫婦が扱う古道具が一つ登場します。それらは好事家の垂涎の的になるような名品で、それを取り巻く人間が良いも悪いも入り乱れて大変な騒動となったり、何気ない小さな品が、歴史の大渦に飲み込まれようとする人の心を癒したりと、様々な人間模様を描き出します。

第一話「よろこび百万両」で登場する品は、黄漆の盆の逸品「堆黄(ついおう)」。骨董道具屋・とびきり屋の主人・真之介は、茶の湯の数寄者、銅屋(あかがねや)吉左衛門から、堆黄の名品をその価値なりの価格が付くなら売っても良いと預けられます。それを知った大物道具屋や茶道家元が安くそれを入手しようと、あの手この手を使って真之介に売却を迫ります。真之介は堆黄をどう扱うのでしょうか。名品の価値とは何かを考えさせられる一話です。

第二話以後の話の中にそれぞれ、香合、黒楽茶碗「鈴虫」、明珍の自在置物、楽家歴代の楽茶碗一揃えが、そして最後に利休の茶杓が登場します。主人公の真之介とゆずの若夫婦の周りには、夫婦の良き理解者である大店の大旦那、若主人の修行元であり妻の実家でもある骨董店の業突く張り大旦那と意地悪い若旦那、茶道の尊大な家元と我儘勝手な若宗匠などが登場します。

興味深いのは、桂小五郎とその愛妾・幾松、三条実美、近藤勇、芹沢鴨などの歴史上実在の人物も登場するところです。ある人は己の持ち物の価値を知るために、ある者は逸品を己がものにせんと、またある人間は単純に金欲しさにより、そしてある人物は我主義主張を達成するためにと、彼らそれぞれがそれぞれの立場や思惑で古道具を巡って巻き起こす騒動を、正直でしっかり者の若夫婦が、その誠実さと機知で切り抜け収めていく過程が描かれます。

読んだ感想

骨董品の逸品など全く分からない私にも、「逸品とは何ぞや」ということが理解できたような気にさせてくれる小説でした。登場人物が良い品に接して良い心持になる場面では自分も同様に楽しくなって、何だか高尚な趣味人の仲間入りをしたと勘違いさせられました。

骨董品や茶道具が中心となる小説ですが、そのこと知らない素人でも100%楽しめることは間違いありません。京都で仕事をしている私は、描かれている街の位置関係や雰囲気を知っているのでとても馴染み易く、すぐに話に没入していきました。登場人物が京言葉を話すので感情移入も瞬時でした。

関西人の登場人物が標準語で、また昔の人間が現代語を話す歴史小説を、私は好きになれないのです。その点、この本は100点満点です。

また歴史好きの私が面白いと思ったのは、幕末の動乱期の京の様子が、町人目線で描かれているところです。長州の下野と七卿落ちという歴史的大事件が勃発した時、町民たちがどう思い、どう行動したのかを、初めてこの小説で知った思いでした。

一小市民である自分と重ね合わせてみて、とても生々しく感じることができて新鮮でした。そしてこの小説の一番好ましいのは、人の善意を至上のものとする、勧善懲悪物語だというところです。だから読後感がほのぼのとして清々しいのです。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。

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