「明け方の若者たち」ありふれた毎日や退屈な日常を送る人に響く作品。

「明け方の若者たち」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「明け方の若者たち」を読んだきっかけ

青春が題材にされた作品が好きで、悩み多き若者をそのまま象徴したようなタイトルに惹かれて手に取りました。酸いも甘いも色々な経験をし、良くも悪くも変化していく若者の心情が綴られているようだと感じ、作品の言うところの明け方とは何なのかが気になり読んでみました。

どんな小説?

この作品は、カツセマサヒコ氏によるデビュー作で、自由奔放のようで残酷な側面も混在する若者の青春が綴られています。夢や恋愛など、様々な希望を胸にキラキラとした日常を送っているようで、内心では複雑な感情が入り乱れる若者。

この作品では、理想の自分になれない苛立ちや、唐突に現れる失恋など、誰もが経験したであろう感情が交差する、繊細な作品です。

あらすじ

就職の内定も貰い、卒業も間近に控えた大学生の主人公は、同じく就職先が決定した同級生たちが参加する飲み会に参加していました。勝ち組飲み会と称されるその場は、幹事の石田が延々自慢話が展開されており、主人公はそんなくだらない飲みの席に辟易し、一人退屈そうに呑んでいました。

すると、主人公と同じ様に退屈そうに一人で呑んでいる女性に目が留まり、彼女に一目惚れします。ショートヘアーで大きな二重まぶた、それらを強調するように小さな鼻や口が配置されたそのルックスは、完全に主人公のタイプで、勝ち組飲み会の場がきっかけで仲良くなります。

引っ込み思案な主人公とは異なり、その女性は行動的な性格をしており、飲み会でのアプローチから始まり、後日のデートで肉体関係になるまで全て彼女主導のものでした。

自分の望むことを自らに成り代わって行ってくれる、そんな彼女との関係も続き、主人公は社会人としての生活をスタートさせます。高円寺で一人暮らしを始め、彼女との半同棲生活がスタートしますが、主人公と彼女の仲は、精神的にコネクトするような深い間柄にまで発展しませんでした。

彼女は、主人公の家にしょっちゅう入り浸りますが、毎日一緒に寝食を共にする同棲には発展しませんでしたし、主人公も彼女の家に呼ばれたこともありません。「付かず離れず」の曖昧な関係が続きますが、勤務先の同期の尚人と仲良くなったこともあり、主人公はそれなりに充実した毎日を送っていました。

しかし、その一方で仕事に対して不満を持っており、上司からの命令で好きでもない仕事を淡々とこなす現状に嫌気が差しており、かと言って転職したり何か具体的な夢を持っているわけでもない、宙ぶらりんな毎日でもありました。やがて主人公は彼女との関係も含めて、理想と現実とのギャップに直面し、これまで何一つ自身で判断出来なかったことへのツケと向き合うことになります。

読んだ感想

この作品の主人公は、自発的に行動を起こし、理想や夢へと近付いたり退屈な現状を変えることが出来ない、消極的な人間です。作品のラストも成るべくして成っただけの必然的な結末を迎えますが、この「誰かが手を差し伸ばしてくれるのを、ただ待つ。」という性格に共感出来る人も実は多いのではないでしょうか。

夢や理想など、自分や周りの環境に対するドラマチックな変化を望みつつも、「面倒臭い」という感情が勝り、結局なにも変えれずモヤモヤとした日常を過ごすだけの主人公。

それは臆病な感情の現れでもあり、夢や理想を目指すことへの警戒でもあります。具体的にも抽象的にも、人なら誰しも「理想の自分」というものを抱えているものでしょう。

しかし、今一つその一歩が踏み出せずに歯痒い毎日を送っている方なら、胸に突き刺さるほど感情移入が出来る作品です。理想と現実とのギャップで揺れ動く、繊細且つ青臭い心情が描写されており、儚くも美しい青春が淡々と綴られている作風に、切ない気分にさせられました。明るいようで暗い、希望に満ちているようで虚無感に苛む日常など、人によって様々な「青い春」迎えることを、この作品に改めて気付かされました。

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