太宰治の「葉桜と魔笛」美しくも切ない話

「葉桜と魔笛」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「葉桜と魔笛」を読んだきっかけ

大学で日本文学を専攻しました。いずれゼミに入り研究対象を絞らないといけないだろうと思い、図書館にある全集を最初から1つ1つ読み進めていくなかで、この作品と出会いました。

正直に言えば、太宰治について先入観がありあまり好きな作家ではありませんでしたが、この作品を読み、彼の作品をもっと読んでみたいと思うようになりました。

どんな小説?

初出は『若草』1939年6月号です。太宰治が、義母(妻美知子の母)にあたる人から聞いた話から題材をとったとされる話です。真面目な性格の姉が年老いて、若くして亡くなった妹のなくなる間際に起きた出来事を思い出して回想するという物語です。

最初から最後まで、姉が物語る形式をとっているので、女言葉で書かれています。作者が男性であることを忘れてしまうほど、美しい女言葉で綴られている作品です。

あらすじ

葉桜の頃になるといつも思い出すこととして、老婦人が回想を始めます。彼女の母は彼女が13歳の頃に亡くなったため、彼女は中学校の校長をしている厳格な父と、2歳年下の妹と一緒に生活しています。

妹は出来の良い可愛らしい子でしたが体が弱く、ついに父は医師から余命宣告を受けます。妹の命は明らかにこぼれ落ちて言っているのに何もできない無力感に姉である彼女は苦しみます。

そんな時、タンスの中からM.Tという名の男性から妹に届いた30通ほどの手紙を見つけます。それだけでもびっくりなのに、貧しい歌人と思しきM.Tは、妹の病気の深刻さを知るとお互いさっぱり忘れましょうと書いた手紙を最後に手紙を送るのをやめたようでした。

彼女は妹を可哀そうに思い、M.Tに成り代わって手紙を書きます。内容は、最初に最後に書いた別れの手紙のお詫びをし、貧しいがゆえに何もできない自分のふがいなさを嘆いてあんなひどいことを書いてしまった、まだ愛している、これからは男らしくできる限りのことをする、そして、毎日、口笛を吹いてあげますという手紙を書きます。

この手紙を読み、妹は言います。「ありがとう、姉さん、これ、姉さんが書いたのね。」すべてをお見通しの妹の前にして、彼女は言葉を失います。すると、妹は告白を始めます。去年の秋ごろから自分宛てに手紙を書いていたこと、恋を知らずに、男性を知らずに死んでいくことが悲しい、私たちは真面目過ぎた、本当はまだ生きていたいのにと言います。

姉妹は泣きながら抱き合います。すると、どこからともなく口笛が聞こえてきます。妹はそれから3日後に、医師も首をかしげるほどの早さで静かに息を引き取ります。老婦人は神のお恵みと思わないといけないと思いながらも、実はあの口笛を吹いたのは父親であったのではないかと思ったりしているようです。

読んだ感想

この作品は10分もあれば読んでしまえる短編小説です。でも、その10分はとても濃密です。作中に東郷提督等の記述があるので、妹が亡くなったのは日露戦争真っただ中であったことが分かります。

その頃は恋愛も自由にできず、病気で死んだこの妹に限らず、この後に戦争に駆り出された若者たちの多くも同じ気持ちだったのだろうと思うと切なくなります。

また、この年頃の女心を男の太宰がどうしてここまで分かるのか不思議でなりません。太宰が女性に人気があった理由もこの作品から垣間見ることができます。ちなみに、私も口笛を吹いていた正体は父親だと思いたい派です。そうであって欲しいと思っています。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。

太宰治の小説「葉桜と魔笛」と、紗久楽さわ のイラストのコラボレーション作品もあります。小説としても画集としても楽しめる一冊です。

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