「怪物」強い想いの中にこそ生まれる怪物【あらすじ・感想】

「怪物」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「怪物」を読んだきっかけ

本屋さんで、いつものように本漁りをしているときに見つけました。夕闇から明け方の空に移り変わるようなグラデーションで彩られたタイトルとお互いの尻尾を狙う2匹の蛇のイラストに、光の当たらない陰の中で蠢くおどろおどろしい「何か」を感じ、思わず惹かれて手に取りました。

また、裏表紙に書かれたあらすじの「処理場で人間の身体くらい溶かせる」という文字に、文字通り消えてなくなる美しさを想像して、読みたくなりました。

どんな小説?

「怪物」は、特殊な嗅覚を持つ定年間近の刑事が主人公の小説です。正義に溢れていたはずの心が、その正義を貫くために罪を犯してしまい、その正義に影が生まれます。そして、共犯者とも呼べる男の助力もあり、その罪は完璧に「溶かされた」はずでした。

それなのに、主人公の正義の影はどんどん濃さを増していき、自分は正義を貫いたのだと立証するためのターゲットとして、共犯者の男を追い込むという行動に出ます。そうして二人の人物による戦いが始まる…そんなミステリー小説です。

あらすじ

死の匂いを嗅ぐことのできる刑事・香西は、犯人に確信があったのに未解決のままで時効を迎えてしまった事件が、長く心のしこりとなっていました。しかもその犯人は、今では日本の政治家になろうとさえしています。

今でもその犯人を捕まえたい。しかし、もうどうすることもできないという葛藤に苛まれていたある日、当時の事件の関係者である女性・藤井寺が香西に連絡をしてきます。そうして二人で、犯人を当時の事件で逮捕することができなくても、別の方法で社会的制裁を加えることを画策します。

その画策は香西の予期せぬ結果を生み、香西は藤井寺を守るという大義名分のもと、禁断の方法に手を出します。それが、「処理場で人間の身体くらい溶かせる」です。処理場で働く男・真崎の助力を得て、文字通り全てを溶かして、香西は平穏な日常を取り戻すはずでした。

しかし、刑事でありながら自身の犯した罪に怯え、目に映るもの全てが自分と藤井寺を脅かしているように感じるようになります。そして、その脅威は香西から徐々に正常な判断を奪い、香西が下した決断は、その脅威から逃れるため、自分の犯した罪を責任転嫁するように真崎を追い込むことでした。

真崎こそが悪と信じ、自分の正義を守るために行動に移すのですが、それはボタンを掛け違えていくように、次々と香西の思惑とは外れた結果を生み出します。その度に香西の心の中の影は広がり続け、ついには、香西の正義を食い尽くすまで広がりを見せます。

読んだ感想

「怪物」は強い想いの中にこそ生まれる。ポジティブな想いもネガティブな想いも、この小説に登場する何かしら強い想いを持った人物たちはみな、その想いが「怪物」を寄せ付けました。

生まれながらの「怪物」もいるかもしれませんが、主人公・香西のように「怪物」になってしまうきっかけは、小説の中だけではなく現実でもあり得ると感じた本でした。正直に言うと、この小説の結末には「救い」がありません。

それでも、唯一「救い」と呼べるところがあるとするならば、完全に「怪物」になってしまうことで、怪物になりつつある自分の心の影に怯えずに済む、というところでしょうか。「怪物」になってしまった香西の行く末は、読者の想像によって語られる終わり方になっています。

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