「羆嵐」(くまあらし) 人が熊に食われる恐怖【あらすじ・感想】

「羆嵐」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「羆嵐」を読んだきっかけ

私はある時、「ウィキペディア3大文学」なるものを知りました。Wikipediaは言わずと知れたネット上の百科事典ですが、そこに記された記事の中でも特に「読み物として」優れている記事のことを通称「ウィキペディア3大文学」と呼ぶとのこと。

その中のひとつ、「三毛別羆事件」という、北海道で起きた人食い熊による事件の全容に、私は衝撃を受けました。そして、その事件を元に書かれた本作「羆嵐」の存在を知り、購入に至りました。

どんな小説?

「羆嵐(くまあらし)」は、吉村昭による小説です。1915年に北海道で実際に起こった、巨大な人食い羆による事件をモデルに作られました。人の味を覚えた羆によって、開拓民7名が死亡、3名が重傷を負った惨劇の様子、そして結末が、読んでいて汗がにじむほどのリアリティを以って描かれています。

私たちは普段、無意識に、自分たちがどの生き物よりも強いように感じてしまっていますが、この作品を読むと、いかにそれが愚かな勘違いであるか、自然の驚異、たった1匹の熊を前に、どれほど無力な存在であるかを思い知らされます。

あらすじ

1915年、北海道苫前村六線沢。ある日ひとつの家で、越冬のための食糧が何者かに食い荒らされているのを発見しました。家主は「羆に仕業に違いない」と思いましたが、それほど警戒心は抱きませんでした。

他にも何日かに分け、あちこちで羆の存在を感じさせる予兆のような出来事がありましたが、彼らはさして重要視しませんでした。しかしある日、ついに惨劇の幕が上がります。ある男が寄宿先の家を訪れると、9歳の男の子が座ったまま、喉元をえぐり取られて亡くなっていました。

そして、家の中にいるはずの女性の姿は見えず、家の中は引き荒らされ、多量の血や毛髪が残っていました。その異様な光景を見た開拓民たちは、犯人が羆であることに確信を持ち怯えました。

しかし、彼らは奮起し、銃でもって羆を撃退しようと立ち上がります。ところが、いざ羆を目の前にすると、弾は当たらず、もしくは手入れを怠ったために引き金を引いても発砲さえされず、羆は再び闇に消えます。そうこうしている間にも犠牲者の数は増え、自分たちだけでは対処不可能と悟った開拓民たちは、警察や近隣の地区の男たちに協力を要請。

屈強な男たちの頭数が増えたことで、事件解決が近づいたかと思われましたが、ふたたび羆を前にした時、やはり羆に対しては無力な烏合の衆でしかないことに気付いた彼らは、熊撃ちのプロである銀四郎を頼る決意をしました。かれは凄腕の猟師ですが、酒癖と素行の悪さで悪名高く、人々から嫌煙されていたのです。しかし、彼が要となり、人々を恐怖の底に叩き落とした事件は、終息へと導かれていきます。

読んだ感想

私は正直、「食事」というものに対して何か大きな気持ちを抱いたことはありませんでした。

ましてや、自分が「食料」側に回る可能性なんて、一度も考えたことはありませんでした。ところがこの作品を読むと、人間も「動物」のうちの一種でしかなく、自分が何らかの動物にエサとして認識された場合、ほとんどなんの抵抗もできない弱い存在なのだと思い知らされました。

そして、その恐怖にさらされることなく、日々生きていられることは、それだけでとても幸福なことなのだと分かりました。他の生き物によって食われる恐怖をほとんど感じずとも良い現代だからこそ、多くの人に読んでもらいたい、そんな小説です。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。

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