「風の盆恋歌」再開した2人が心の隙間を埋める恋心【あらすじ・感想】

「風の盆恋歌」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「風の盆恋歌」を読んだきっかけ

実際に八尾を訪れ、風の盆を見学し、他にはない強い印象が心に刻まれました。胡弓の哀愁を帯びた響きと優雅な踊りと町の雰囲気が調和した素晴らしいものでした。

その後に書店で、この小説を手にして、どんな小説か知らぬまま読み進め、小説にも強いインパクトを受けました。

どんな小説?

1987年9月に新潮文庫から発刊された高橋治の小説で、中年の不倫を描いた小説です。不倫と言っても、ドロドロとしたものではなく、八尾の風の盆の胡弓の響きが背景に聞こえてくるような、侘しさと悲恋を感じさせる心象描写の素晴らしい小説です。実際に八尾で風の盆を見学されると、小説の雰囲気がより強く心に迫って来ると思えます。

あらすじ

この小説の主人公は、都築克亮と中出えり子と言う中年の男女です。二人は青春時代に金沢の町で共に過ごし、当時お互いに惹かれながらも、それぞれグループの中の別のパートナーと結婚し、それぞれの人生を歩んで来ました。

この2人が20数年を経て、パリで再開を果たす所からドラマが展開されます。このパリでの再開時に、やはり互いに忘れられない存在である事を強く認識します。

この再会からさらに数年を経て、越中八尾の「おわら風の盆」の夜にようやく結ばれます。そして年に3日間だけ、この風の盆に合わせて逢瀬を重ねる事を約束します。

都築はこの3日間の為に八尾に民家を購入し、えり子がやって来るのを待つのです。しかし1年目も2年目もえり子は現れる事はありませんでした。それぞれに家庭や家族があり、それがえり子が簡単に八尾を訪れられない事を感じさせられます。えり子が八尾で待つ都築の所を訪れるには、勇気がいる事だったのでしょう。

そんな中で、えり子はようやく八尾を訪れ、再び都築との逢瀬に身を焦がします。そんな逢瀬での2人の心象風景も繊細に描かれています。しかしそんな逢瀬が可能な年月は長くは続きません。

そして次の章では、年に3日だけの大人の恋愛を待ちわびる2人が交わす書簡が綴られます。その中に、それぞれの心象風景が精緻に描かれ、そして何とはなしに破局を予感させるのです。

そしてストーリーは大きく転換し始めます。2人は京都での逢瀬を最後に、しばらく音信普通となり、それぞれの普段の人生を送ります。そしてそんな中で都築は原因不明の病に冒されます。

そしてある年の風の盆の日に、えり子の娘が突然訪れ、母は死んだと告げるのです。数日後、えり子を亡くし憔悴する都築に電話がかかって来ます。それは何とえり子からでした。

娘は母親の不倫を知り、それにピリオッドを打たせるために嘘をついていたのです。電話口に出た都築は病状が悪化し、息も絶え絶えの状態で、それを感じたえり子は八尾に駆けつけますが…。

読んだ感想

若い頃に惹かれながらも別々の人生を歩んだ中年の男女の不倫の話です。しかしドロドロとして不倫話ではなく、どことなく裕福な階層の中年の、どことなく満たされない心の隙間を埋める熱い恋心が感じられる作品です。

この小説の底流には、胡弓と三味線の哀愁を帯びた音曲と、深く編み笠を被り優雅に踊る男女の姿と共通する雰囲気を感じました。ストーリーとしては不倫であり、悲恋であり、何となく陳腐な面もありますが、それを超越して文学・小説へと昇華させているのはさすがだと感じさせられました。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。電子書籍はありません。

他の電子書籍サイトでも「風の盆恋歌」の電子版は読むことができません。

honto では、紙の本を購入することができます。

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