「喜嶋先生の静かな世界」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。
「喜嶋先生の静かな世界」を読んだきっかけ
デビュー作から森博嗣さんのシリーズ物ミステリーを読んでいたのですが、デビュー直後のハイペースに比べて発行ペースが落ちてきて、読みたいと思える作品にあまり出会わなくなっていました。ところが新刊だったこの本を書店で見かけ、たまにはシリーズ物じゃなくても、ミステリーじゃなくてもいいかと思い、読んでみました。
どんな小説?
一言でいうなら、「青春小説」であり、「研究の深さ・面白さ、研究者の高潔さ」を描いた小説でしょうか。
師である木嶋先生と過ごした日々、そして彼女ができたエピソードなどを交え、理系の大学生が、卒業する頃に研究の深さと面白さに気づき、大学院に進学、そして研究者となり…、という物語です。
あらすじ
【ネタバレあります】理数系に興味や適性のあった主人公が大学に入学するが、やはり高校までの勉強と同じで、それはたいして面白いものではなかった。ところが卒論のために配属された喜嶋研究室で、それまでの勉強と「研究」との違いを知り、その深さ・面白さを理解するようになる。
そして、それまでの勉強に失望していた彼は一転、その道を進んでみたくなり、大学院に進学する。研究に魅了された彼は、それに没頭し、一日中そのことについて考えるような日々を送る。それはあまりにも純粋で、魅力的な時間だった。
そして、師である喜嶋先生の研究者としての優秀さ、個性、高潔さに主人公はひかれ・学びながら、彼もまた研究者として成長していく。
一方、主人公も喜嶋先生も、一人の人間でもある。主人公をずっと見ていたという同級生に告白され、やがて結婚するエピソードや、大学の計算機センターの知的美女・沢村さんと話をするだけで戸惑ってしまうエピソード、研究室の先輩や同期の人たちとのエピソードなども散りばめられ、また、喜嶋先生自身も沢村さんに気があり、いきなり彼女にプロポーズをしたり、断られた後に結局は結婚したりと、様々な人間模様も進行していく。
やがて、それぞれが別々の道を歩むようになる。主人公は、大学に就職口を見つけ、いわゆるプロの研究者となり、結婚し、子供が生まれ、出世していく。ところが地位を得てしまった彼には、研究をする時間がなくなっていた。
書類仕事や会議など、運営側の仕事にどうしても忙殺されてしまう。最後に彼は思い出す。研究に没頭していたあの日々は本当に貴重で幸せだったのだ、と。そして研究者として自分の理想を体現していた喜嶋先生は、今もその道を歩んでいるだろう、と願っていた。
読んだ感想
主人公もまた、喜嶋先生と同様に、優秀で高潔な研究者だったのだと思います。しかし彼には、一般常識や社会性が喜嶋先生より備わっていました。
だから、大学教員、夫、父親の役割もこなすことができたのだと思います。しかし一方で、そのために純粋な研究者ではいられなくなってしまったのも事実。
ところが喜嶋先生は、主人公以上に純粋な研究者であり、研究者でしかいられない人だったのかもしれません。最後に主人公が、自分が純粋な研究者であった頃を懐かしむシーンがとても印象的でした。
どの道を選ぶのが正しいというものではないのでしょうが、研究というのはそれほど魅力的であり、そしてその道を歩み続けられる喜嶋先生のような人のことが、とても美しく思えました。
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