「革命前夜」ベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツが舞台。青春・音楽・歴史が絡み合う小説【あらすじ・感想】

「革命前夜」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「革命前夜」を読んだきっかけ

友人に勧められて読みました。勧められたというか、友人が『革命前夜』をとても気に入ったらしく、「『革命前夜』のような小説を他に知ってたら是非勧めてほしい。だから一度『革命前夜』を読んでほしい」とお願いされたので読んでみました。

もともと書店でよく見かけており、「文庫担当が今一番読んでほしい本」という帯に惹かれて興味を持っていたこともあり、購入しました。

どんな小説?

青春・音楽・歴史が複雑に絡み合う小説です。ジャンルが難しい……一応青春小説でしょうか?舞台は1989年、まだベルリンの壁が崩壊する前の東ドイツ。

バブル期の日本から音楽留学したピアニストの青年が、世界各国の留学生と交流しながら自分だけの音を探していきます。

ここまでは青春音楽小説なのですが、中盤から東ドイツの社会主義圏の監視社会の薄暗さが目立ちはじめ、繊細な青春小説から当時の社会と歴史を描き出す大きな物語へと様相を変えていきます。

あらすじ

1989年、バブル期の日本を離れ東ドイツに音楽留学した青年・眞山。東ドイツは社会主義思想を掲げる国であり、当時好景気に沸いていた資本主義国の日本とはずいぶんと雰囲気が違いました。

監視社会による窮屈な生活、物資の制限などで日本では当たり前のように享受できていた自由が享受できない中、眞山は大学で世界各国からやってきた同世代の音楽家たちと出会います。

激しい気性と型破りな演奏で周囲を振り回すハンガリー出身の天才バイオリニスト・ヴェンツェル、ヴェンツェルとは反対に型通りの見事な演奏で聴衆を魅了する東ドイツのバイオリニスト・イェンツ、「失敗したら帰れない」と国の音楽会を背負って立つ北朝鮮からの留学生・李、幼い頃は爆撃機の音を聞きながら紙に描いた鍵盤で練習をしていたというベトナム出身のピアニスト・スレイニェットなど……。

留学当初は思うような演奏ができず、苦しみながら自分だけの音を模索する眞山ですが、そんなとき町の教会ですばらしい演奏をするオルガニストの女性・クリスタと出会います。

クリスタに惹かれる眞山ですが、彼女は昔、資本主義国の人間と恋人関係にあったおかげでシュタージ(国民を監視する秘密警察、国家保安省)に監視されていました。

彼女は国にやってきたばかりの眞山に言います。「この国の人間関係は二つしかない。密告するかしないか」彼女は東ドイツの体制に反対し民主化を掲げる市民団体「革命前夜」のメンバーでもありました。

貧しい物資や家族・友人関係を壊すことさえあるシュタージの存在に不満を持つ国民は多く、選挙で国家体制への反対票を投じる人が増えるなど、東ドイツ国内では不穏な雰囲気が高まっていきます。

クリスタは眞山に「あなたは留学生なんだから、よその国の革命に手を貸してはダメ。危ないことをしてはダメ」と忠告しますが、眞山は少しずつ革命前夜の活動に協力するようになります。

やがてクリスタはハンガリーに亡命し、東ドイツでは反政府勢力が猛烈なデモを起こします。そして時代はベルリンの壁崩壊の瞬間へと近づいていきます。

読んだ感想

青春・音楽・歴史が絶妙に絡み合い、後半で追い上げるように大きな物語へと変貌していくストーリーのおもしろさもさることながら、日本人の著者が1989年当時の東ドイツの雰囲気をここまで描けるものなのか、という驚きも大きかったです。

序盤から丁寧に描かれる監視社会の重く窮屈な雰囲気。『革命前夜』は2017年にいつくか賞を受賞しているので、書かれたのは2016年~2017年頃かと思いますが、ベルリンの壁崩壊前の東ドイツに取材にいけるわけでもないのに、ここまで緻密に雰囲気を作り上げられるのが本当にすごい……。

淡々と起こったことが書かれている歴史系の本だと、自分には関係ないどこか遠くの世界のように感じてしまうのですが、このように物語として描かれると登場人物の感情フィルターを通して自分事のように感じられます。

個人の日常と切っても切り離せない国家体制の怖さや、誰も信用できない監視社会の悲しさをひしひしと感じました。間違ってもこのような社会が自分の生活圏内にやってこないように、身近なこととしてはとりあえずちゃんと選挙にいこうと思いました。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。

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