「苦役列車」露悪的で恥辱にまみれた私小説【あらすじ・感想】

「苦役列車」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「苦役列車」を読んだきっかけ

雑誌、文藝春秋に掲載されているのを目にして読みました。 当時は夢も目標もなく鬱屈とした日々を送っていました。

そんなときに苦役列車というタイトルが目に飛び込んできて、もしかしたら自分を救ってくれるかもしれないと、なかば本能的に手に取ったことがきっかけです。

どんな小説?

主人公である北町貫太が、鬱屈とした感情を抱えながら日々を生き抜く私小説です。中卒でありながら社会に出て、劣等感に苛まれながら、日雇い労働者としての毎日を送ります。

堕落、恥辱、暴力、人間の恥ずかしい部分を凝縮したような貫太が、様々な視点で他人を観察するのでとても面白いです。 ありのままの姿でいる貫太に思わず共感してしまう、不思議な作品だと思いました。

あらすじ

19歳の北町貫多は日雇いの仕事で生計を立てています。 家賃を滞納しているにもかかわらず、日当の5千円は酒代につぎ込む日々を送っていました。

しかし貫太も望んでそのような生活をしていたわけではありません。 貫太の父親は性犯罪者でした。そういったことが原因で自暴自棄になった貫太は、母親から10万円を奪い取ると、鶯谷に三畳間の部屋を借りたのです。

怠惰な貫太は、その日も仕事に出かけるか迷っていました。しかし所持金が150円しかないことに気が付き渋々働くことを決めます。 貫太はマイクロバスに乗り込むと平和島の冷蔵団地に向かいます。

そして、冷凍のタコを運び続ける過酷な労働が終わると、日当の8300円を渡されます。夢も目標もない貫太にとっては、これだけが目的でした。そういった毎日を送っていたのです。

そんなある日、日下部正二という男が仕事に向かうマイクロバスに乗り込んできました。専門学生の彼は、背が高く精悍な顔つきをしていました。 そんな日下部に貫太は劣等感を覚えます。しかしそれ以上に人懐っこい日下部の魅力に惹かれた貫太は、徐々に好意を抱き始めました。

2人は仕事終わりに居酒屋に行ったり、家で語り明かしたりと、仲を深めます。貫太は日下部と会うことを楽しみに、継続して出勤します。すると話の流れで、日下部から女友達を紹介してもらうことになりました。

当日、飲みの席で夢や目標などを語る日下部らに対して、貫太は劣等感を覚え始めます。そして酒に酔ってしまった勢いで、貫太は彼らに暴言を吐いてしまいます。

その日を境に、貫太と日下部は疎遠になっていきました。その後、職場で喧嘩騒動を起こしてしまった貫太は荷役会社も首になり、以前の孤独な毎日に逆戻りするのでした。

読んだ感想

読んでいて不思議な感覚になりました。主人公の貫太は劣等感に苛まれています。自分を見下した連中に復讐したい。しっかりとした職に就きたい。彼女がほしい。

しかし、そういった恥ずかしい部分は誰しも持っています。 なので読んでいて共感できるのですが、なぜか共感したくないと思ってしまうのです。なぜなら、共感してしまったら自分の恥ずかしい部分を認めたことになってしまうからです。

そして特に印象的だったシーンがありました。 飲みの席で夢や目標を語る日下部たちに対して、貫太が悪態をつく場面です。なにも持っていない貫太に対して、日下部たちは当てつけのように自慢を始めるのです。

そのとき貫太が抱いた劣等感に共感すると同時に、実に爽快な気分になりました。このように、非現実的なストーリーを感情移入しやすいシーンを用いて描写しているので、まるで自分のことのように読み進めることができました。

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