「X電車で行こう」列車にとり憑かれていく男の数奇な運命を描いた異色作【あらすじ・感想】

「X電車で行こう」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「X電車で行こう」を読んだきっかけ

都内を目まぐるしく走る地下鉄の路線図を眺めるのが好きで、地方に旅行に行った時には飛行機や車ではなくローカル線でのんびりと巡るのが楽しみです。

観光はおろか外出も自粛しなければならないこのご時世の中、せめて物語の中でも旅情を味わってみたくなりました。1965年1月1日に新書館から刊行された単行本は絶版となっていたために、ハヤカワJAレーベルから出ている文庫版をネット通販で購入しています。

どんな小説?

著者の山野浩一は1939年生まれの大阪府出身、作家デビューは「悲劇喜劇」1964年3月号に発表した戯曲「受付の靴下」。

サンリオSF文庫の編集顧問として海外文学や新人作家を次々と紹介する傍ら、自身もニューウェーブ派と呼ばれる前衛的な作品を残しています。1964年に「SFマガジン」7月号に発表された本作は、「X電車」と名付けられた正体不明の列車にとり憑かれていく男の数奇な運命を描いた異色作です。

あらすじ

自由ヶ丘のアパートでひとり暮らしをしている俺は、毎日東急東横線と都営地下鉄を乗り継いで銀座駅前にあるオフィスに出勤しています。

仕事といえば出金伝票の整理や書類の作成に得意先への発送業務、上司は口やかましく嫌みな課長、お給料は月3万7千円ほどにしかなりません。代わり映えのしない1週間の繰り返しの中でも、俺にとって何よりもの慰めとなっているのは鉄道に乗ることです。

江ノ電や能勢電のようにポールをガラガラと鳴らして走る旧式電車、阪急神戸線や新幹線のようにスピードを追及した新式、蒸気機関車や貨客混交車。そんな俺はある時に朝刊の片隅に掲載されていた、「幽霊電車」という見出し付きの小さな記事に心を奪われてしまいました。

日付は11月22日の午後3時20分頃、東武鉄道野田線の大宮発船橋行き各駅停車、場所は七里ー岩槻区間、目撃者は運転手から車掌に乗客数名。東武鉄道の調べでは付近の信号機やレールにアクシデントや異常箇所は見つからず、詳しい原因は分かっていません。

23日付けの新聞でこっそりと第一報が伝えられてから2~3日後、今度はテレビのニュースで大々的に報道されました。現れたり消えたりしながらゆっくりと走り奇妙な音色を響かせることから未確認移動性放電物質、略して「X電車」とマスコミによって騒がれます。

俺がこの目でX電車の存在を確かめたのは、東武伊勢崎線を経由して営団地下鉄日比谷線の東銀座駅を通過した時です。たまたまお昼時に地下の喫茶店で時間を潰していた俺は改札口から駅のホームへと駆け込み、その姿を目の当たりにします。

見てはいけないものを見てしまったような俺は、昼休みが終わっても会社に戻るつもりはありません。これまでの平々凡々とした人生に別れを告げた俺は、X電車に追い付いて新しい自分へと生まれ変わることができるのでしょうか?

読んだ感想

毎朝のラッシュアワーに巻き込まれながら出社、タイムレコーダーと上司に挟まれながら分刻みのスケジュール、自宅に帰っても待っている家族はいないために独りでテレビを見ながら就寝。

「俺」とだけしか名乗らない何ともぶっきらぼうで愛想のない主人公ですが、電車とジャズに関しては人が変わったように饒舌になるのが微笑ましいです。

本作品のタイトルはピアニストのビリー・ストレイホンが1941年に作曲した「テイク・ジ・A・トレイン」で、ジャズファンにはスタンダードナンバーとしてお馴染みでしょう。

アフリカ系の熱狂的なリズムが特徴的なイーストコート派と、クールで静かなウエストコート派にジャズミュージシャンは二分されています。

日本の電車も関東と関西では車両形式や運行ダイヤルがまるっきり異なるために、ふたつの世界に不思議な繋がりがあって面白いですね。退屈なサラリーマンが線路の向こうを越えてたどり着いた境地にはビックリで、今時の鉄ヲタの皆さんは是非とも読んでみてください。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。電子書籍はありません。

その他の電子書籍サイトでも「X電車で行こう」は読むことができません。

honto では、紙の本を購入することができます。

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