「日本三文オペラ」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。
「日本三文オペラ」を読んだきっかけ
学生時代に戯曲が好きでベルトルト・ブレヒトの三文オペラを読んで非常に面白かった。そして、たまたま本屋で、この本を見て題名に興味を持ち買ってみたのがきっかけでした。
どんな小説?
「こんな小説が日本にあったんだ!」とびっくりした作品。これ一作で開高健のファンになった。私小説などとは全く縁のない作品で行間から強烈な匂いが漂ってくるような作品。
出て来る人達はたくましく、かつ荒々しく、一般社会からみたら「とんでもない人物」ばかりである。その強烈さは圧倒的で何回、読み返したか分からないほど読み返した作品。
最後はついに文庫本の背表紙がぼろぼろになり本がバラバラになってしまった。それくらい好きな作品。
あらすじ
話はフクスケというルンペンがズタ袋を背負って歩いていたら、キムという人物の奥さんに声をかけられるところから始まります。「兄さん、何が食べたい?」当然、はらぺこのフクスケは慎重に考えて最も安い食事である「煮込みともつ丼」と答えます。
すると、その女は本当に煮込みともつ丼をフクスケに奢ってくれたのです。食べ終わると、その女はフクスケに「仕事があるんやけど」。フクスケは「やっぱりな。タダでは食えんわ」といういきさつでフクスケはその女に連れられて、ある部落へと連れていかれます。
そして、その部落の住人の仕事を手伝うことになるのですが、彼らの仕事というのはなんとクズ鉄拾い。それも大きさが1t以上もある鉄くずの大きな塊を掘り出す、というものでした。
その場所はかつて砲兵工廠があった場所で米軍に徹底的に爆撃を食らい全てが破壊され土に埋もれているのです。そして、彼らはそれを掘り起こしてクズ鉄屋に売って生計を立てている、という訳なのでした。
部落にはいくつものグループが有りキムはその中の1つのグループのリーダーだったのです。そしてフクスケはキムにブツの見つけ方や部落内のルールを教わり正式にメンバーに入れてもらうこととなります。
そしてフクスケが見たものは、部落に暮らす人達、また部落にやってくる人達の強烈な生き様でした。
片足を失い松葉杖をつきながら高額なブツを発見する「天才的アタリ屋」、普通の神経ではとても飛び込めない汚泥と強烈な匂いのする川に潜って沈んだブツを引き上げる潜りの専門家「タマ」、少々頭がおかしくなっているルンペンの「水屋」、部落からブツのある広大な敷地の間にある川で渡し舟を営む「東条」、一応、埋まっているブツは国家財産なのでそれを守る係の警備の連中、一般的に見たら「社会の最底辺の人々」ですが、そこに感傷や同情は必要ありません。彼らはしたたかで狡猾でたくましく貪欲なのです。
しかし段々とブツも見つけにくくなってきており以前のようには簡単にみつけられなくなってきていました。そこへ入ってきたある情報。実際に存在したらしい部落の栄枯盛衰を描いた作品です。
読んだ感想
これほど面白い日本作家の作品は読んだことが無かったので、とにかく驚愕しました。この小説に登場する人物はまさにブレヒトの三文オペラと同じく、したたかで狡猾でたくましく、かつ傲慢です。そして、それが痛快でありとんでもなく面白いのです。
ちなみに彼らの食事は「牛から皮と骨と普通の肉」を除いた「牛の破片」つまり内蔵を七輪で焼いたホルモン焼き、とでも称するものです。新鮮な牛の内臓が血まみれになってバケツの中にどっさり入ったのが牛一頭分、あるのです。
この描写を読んでから一度、実物を見たいと思っているのだが、焼き肉屋でホルモンを頼んでも、まさかバケツに入れてはこないので、未だに未見です。
ここには「私小説」などという甘ったるい考えは微塵も通用しない世界が広がっており、これがたまらなく面白いのです。開高健の小説の中では、まぎれもなく№1であり「珠玉」の作品です。
読んでいない方は是非お読み下さい。この作品はブレヒトにも負けていません。むしろ優っているかも。
Amazonや楽天で購入して読むことができます。
その他、「日本三文オペラ」が読める電子書籍ストアはこちらです。