「正欲」水に欲情するマイノリティの視点と社会正義を重んじるマジョリティの視点【あらすじ・感想】

「正欲」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「正欲」を読んだきっかけ

秋山具義さんという方のインスタグラムアカウントの質問コーナーで「最近読んだおすすめの本をおしえてください」という質問に答えていてこの本を知りました。

とにかく面白いということでそのあと、購入しようと調べていったら新書しかない…朝井リョウの作品は読んだことがないし気に入らなかったら心配なので図書館で予約してみようと思いました。

予約順位317位でした…こうなるとそんなに面白いなら買うしかない!となり購入に至りました。

どんな小説?

水を題材として、人間の欲求にフォーカスした小説です。 普通の欲求、普通の生活って何だろう…何が普通で、何が異常で、マジョリティで、マイノリティで…マイノリティにさえ入らないような欲求をかかえ苦しみながら、でも半ばあきらめながら生活する人の話です。

明日生きるいわゆる一般的な人々になるにはどうしたらいいのかを闇深く考え葛藤している人の気持ちが、そういう欲求はない私でも痛いほど感じることができる話です。

あらすじ

検事の父親と不登校の息子の話から始まります。息子は意気投合する不登校仲間を見つけます。その友達と一緒に動画サイトを開設します。

この動画をそれぞれに見ていたのが佳道と夏月です。彼らは中学の同級生でした。中学の同窓会で再開し、お互いに動画を見ていることを知りました。実は中学の頃、お互いのずれた欲求を知りました。

ある年末、夏月は生きづらい世の中に嫌気がさします。車のアクセルをおもいっきり踏んでしまおうかと思った目線の先には、同じ目の色をした佳道がいました。その日、二人は結婚する約束をしました。契約結婚です。同じ欲求を持つ者同士でつながるための結婚です。

佳道と夏月はある日、お互いの欲求の「水」の動画を撮ろうと出かけます。大成功に終わりました。二人は「水」に欲情する仲間をSNSに求めます。そこで出会ったのが大也です。

大也は大学でちやほやされますがどこかずれていることから、ゲイなのでは?という噂が立ちます。ゲイでも、マイノリティでも生きていこうよと太った女学生が付きまとうのです。大也にとっては有難迷惑でした。

同じ趣味の人とつながりたい、その思いで佳道と公園で待ち合わせます。「水」の動画を撮影するためです。 しかし、運の悪いことに逮捕されます。 たまたま子供が公園にやってきて一緒に水遊びをすることになってしまったのです。

そしてたまたまSNSでつながったもう一人の人物が、実は以前に少年にわいせつ行為をしていたという前科があったのです。そこから一緒にいた佳道と大也も同罪だということで取り調べが始まります。 検事の取り調べ中、大也も佳道も黙秘です。この検事は、最初に出てきた不登校少年の父親です。

2人は、水に欲情するということは言いません。わかってもらえるはずがないことはいままでの人生で習得済みです。 佳道は検事に「夏月に、どこにも行かないよと伝えてください」といいます。

夏月も事情聴取の際に「どこにも行かないよと伝えてください」と同じことを言います。彼との秘密を明かすことはありませんでした。

読んだ感想

ただただ切なくなりました。きっと私は普通の人でマジョリティ側の人間です。 読みながらなんだか葛藤してしまう部分がありました。

「あー、その気持ちわかる!」という箇所が何か所かあるんです。でも安易に「わかる」と言っていいのだろうかと思ってしまいます。フィクションの中の人間を生身の人間であるように感じてどう接したらいいのかわからなくなるような感覚でした。

人には言えない秘密があり、それがたまたま水に欲情するということだったというだけでこんなに苦しい思いをして生きていくのか、と思い気持ちになりました。そう思うと同時にマジョリティ側の私の「苦しい思い」の創造の範疇なんてたかが知れているもんなとも思いました。

ハッピーエンドで終わる話でもなく、結論がある話ではありません。後味は悪めです。だからこそ色々なことを考えてしまうなと思う作品でした。読み応えの部分でも構成でも本当に面白い作品でした。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。

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