「夜行秘密」居場所のない人々の孤独と激情を描いたラブストーリー

「夜行秘密」がどのような作品なのか、読者によるあらすじと感想です。


出典:https://www.amazon.co.jp

「夜行秘密」を読んだきっかけ

元々カツセマサヒコの作風や登場人物の描き方が好きで待望の2作目が本屋に並んでいるのを知り、すぐ手に取りました。

Indigo la Endというロックバンドのアルバムを基に小説化した作品なので音楽の持つ世界観をどこまで表現され、反対に音楽では落とし込むことのできない感情をこの本を通して追体験できればどれほど素敵だろうかと考えレジへ直行しました。

どんな小説?

著者カツセマサヒコがIndigo la Endと作り上げた“居場所のない人々の孤独と激情を描いたラブストーリー”です。

登場人物それぞれが人には言えない事情や秘密を抱え社会の中で生きていて、お互いが自身の存在を確認するように相手に惹かれていきます。

しかし7人のストーリーが交錯していく中で恋愛における幸福には同時に複雑性や脆弱性を持ち、耐え切れなくなってしまった人々の後悔と葛藤が痛いほど分かる作品となっています。

あらすじ

駅のホームで偶然出逢った岩崎凛と松田英治は電車がいくつ通り過ぎても動こうとはしません。家に帰れない事情を抱えている見ず知らずの2人は、決まった時間に決まった場所で静かに唯一心休まる時間を共にします。

映像作家として成功を収め、孤高に生きる宮部あきらは宮部に憧れ、ファンと名乗る富永早苗と一夜を過ごし、不思議な居心地の良さを感じます。そして、富永早苗は女癖の悪い宮部に対し、物分かりの良い女を演じながら傍に居ようとしますが、距離が近づくにつれ情念が湧いてしまいます。

脚本家を夢見る岩崎凛は同棲している彼氏の音色が自身のバンド、ブルーガールにすべてを注ぎ、夢を追う彼の人生に自分がいないことが増え、一緒に居られなくなってしまう不甲斐なさを感じていました。

一方、音楽で有名になるために恋人と決別した音色は、失ってから彼女の存在の大きさに気付くも意地とプライドが邪魔をし、曲作りに奮闘しながら日々を過ごします。 “同性愛者”という秘密を抱えながら一緒に暮らすナツメとメイ。

世間には理解されない同じ悩みを持つはずの2人が、次第にお互いに対しズレを感じるようになり、出逢った当初の運命的な煌めきは徐々に色を失くしはじめます。

パワハラ、SNS、性差別問題など現在の社会で生きづらさを持つ7人、それぞれが抱えきれない孤独や寂しさの中で決して交わることなく、迷い、お互いを求めては傷つき合う。そんな彼らを待ち望むものは一体何なのか。

「それは彼女と僕だけの秘密です」。すべてが繋がった瞬間、やり場のない感情が取り残され、切なく散っていく、痛切で凶暴な愛の物語にきっと誰もが過去の過ちや後悔を思い出しては何度も打ちひしがれるに違いないです。

読んだ感想

様々な愛の形をテーマにしていて、Indigo la Endが表現する14曲の世界観と、音楽では描きれない景色がこの1冊に詰め込まれていると感じました。“世界に隠された後悔の物語”を7人の視点でひも解いていく構成が気持ち良くて、どんどん読み進めてしまいます。

しかし、ページをめくるにつれて明かされる各キャラクターの秘密や後悔に何とも言えない切なさと痛みが生じ、全身に不協和音が走るような感覚がずっと残りました。

ストーリーの中で印象深かったのは、音色と岩崎凛がすれ違っていく場面です。愛が失われてしまったことを認めたくない凛の心情が一番理解できたからです。

そして失恋後、誰にも必要とされなくなってしまった自分と似た境遇の宮部あきらに遭遇し、救うことで本当は自分の傷を癒そうと必死だった様子や、またそんな凛が居場所のない松田英治にとって唯一心を開ける存在で、2人の幸せなひと時と結ばれない結末には想い合っていても当人同士ではどうにもならない形の愛が存在するのだと、心に刺さりました。

最後に音色が言った「いくつもの後悔を抱えたまま、それでも前に進んでいくしかないと思った」という言葉は、私の中にある過去に対する救いようのない気持ちや矛盾を許容し、少しだけ自分に優しくなれそうな気がしました。

Amazonや楽天で購入して読むことができます。

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